今回のお話を聞いたのは、北海道余市町の齊藤 啓輔町長。

果樹栽培やワインの醸造業が盛んな余市町で、地方創生のモデルとなるようなまちづくりを進めていきたいと考えておられる齊藤町長。インタビューでは、齊藤町長の目指す余市町、そして日本全体の未来像や、町職員にかける想いをお聞きしました。

kanno インタビュアー:株式会社MAKOTO WILL 代表取締役 菅野 永

地方銀行、公務員を経て2015年1月にMAKOTOへジョイン。2018年7月にMAKOTOグループ化に伴い、MAKOTO WILL代表取締役就任。

 

地元をよりよい場所にするため、舞い戻って町長に

 

ー 町長を志した経緯を教えてください。

生まれが北海道の田舎なのですが、当時は閉塞感しか感じることができませんでした。一刻も早く田舎を出たいと思い、中学卒業と共に地元を離れています。その後外務省に入省し、東京と海外を行き来する生活をしていました。しかし、ロシア担当となったことがきっかけで、日露間の懸案事項である北方領土を有する北海道に十数年ぶりに降り立ちました。

 

そのときに改めて、北海道が持っているポテンシャルに気付かされました。ただ同時に、課題も見えてきたんです。この課題を克服しないといけない。日本全体が人口減少等で落ち込んでいくなかでも、北海道がいち早く沈んでいってしまう、と危機感を抱き、北海道に戻ってくる決意をしました。

 

ー 外務省の外交官からキャリア転換は大きな決断だったのでしょうか?

いいえ、そもそも外交官になったきっかけが、パブリックな仕事、つまり自分が生まれた地域をいい方向に導いていく仕事がしたいと思ったことだったので、町長職もその延長線上です。

両親が公務員ということもあり、物心ついた時から公的な機関での仕事を志していたような気がします。知らず知らずのうちに愛国心・愛郷心が育まれたのでしょうね。

 

日本の大きな可能性と、それを活かしきれていない今

 

ー 日本以外に住んだことのない私からすると「日本=課題先進国」というイメージが強いのですが、外交官を経験された齊藤町長のなかでの日本はどんな国ですか?

日本は世界のなかでも恵まれている国です。人口を見ても、1億2,000万人は多いほう。しかし、これがあと80年もしないうちに半減します。

これまで日本は大きな人口を活かした国内マーケットを使って経済成長してきましたが、今後このビジネスモデルで成長することは出来ません。転換が求められます。

 

ビジネスモデルの転換が求められるのは、地方でも同じです。これまでは、国が中央に集まった資本を分配することで、いわゆる「国土の均衡的な発展」を目指し、地方の経済を引き上げてきました。しかし、このモデルでは地方は立ち行かなくなります。地方のまちでも自らのポテンシャルを活かして富を生み出し、日本経済を再活性化する必要があると私は考えています。

 

ちなみに、ここ25年間の日本のGDPの推移を見ますと、25年前に約5兆ドルだった日本のGDPは、今も変わっていません。対してアメリカは、25年前に約8兆ドルだったGDPを現在約20兆ドルまで増やしています。

 

一体日本で何が起きているのか?と思うわけです。特に地方がポテンシャルを活かしきれずに富を生み出せていないことが大きな原因だと私は思います。この成長できていない現状を変えなければ、今後の日本は危ういと感じています。

ただ、現状を変えることはできるはずです。先ほども述べたように日本は恵まれた国で、深刻な貧困の連鎖に苦しんでいるわけではありません。まだやれることがある。

例えば、今の若者のなかで、富を築いていくというマインドが低下しているという印象があります。原因には長年にわたる日本経済の停滞などがあると思いますが、こういったマインドを脱却しつつ、人々が所得を上げてよりよい生活ができる日本にしていく必要があると思います。

 

yoichi_interview

 

ー 人口減少のトレンドの話が出てきましたが、日本や地域の人口政策に対してどうお考えですか?

「こうすれば〇年で人口が〇%増加」といった人口ビジョンを提示しているところもありますが、これが上手くいくかについて私は懐疑的です。人口減少のトレンドは避けて通れるものではありません。だとすれば、人口減少を所与の条件としてコミュニティを維持する政策が必要ではないでしょうか。

 

他方で、無策ほどの愚策はありませんから、人口減少を緩やかにする施策も必要だと思います。例えば今、多くの地域で高齢者向けの予算が莫大になっていますが、それに比べて、子育て支援や女性の社会進出を支える財源が少ない。これは変えなければいけない。具体的には、若者・女性の政治参加が必要でしょう。

 

ワインで一点突破する、余市町のポテンシャル

 

ー ポテンシャルを活かしていくために、余市町ではどのような取り組みを行っていますか?

余市町は「ワイン」に力を入れています。それぞれの自治体に強みがあるはずで、この町の場合はそれがワインでした。

ワインは国際共通言語であり、グローバルマーケットを持つものです。ただ、今の余市町のワイン産業ではグローバルな視点とマーケティングの視点がやや足りていないと感じるので、この視点を育むことに投資していきたいと思います。

 

このワインという強みを、より強化できるような官民連携にも関心を持っています。余市のワインをブランド化できるような有名企業とぜひ連携したいです。

日本ではナイトマーケット(クラブ等)におけるシャンパンの市場が大きいのですが、今は外国産のものが消費されている。そこでブランド価値のついた日本産のスパークリングワインがあれば、マーケットシェアを拡大できるはずです。

 

yoichi_online_interview

 

ー やはりそれだけワイン産業を基軸としているんですね。

そうですね。色々な産業がもちろんあるので、今まで平等に財源を使っていましたが、それでは全てが中途半端になる。やはり何か特徴を持たなければ、ヒト・モノ・カネは集まらない。ですから、一点突破で、ワイン産業に集中的に力を注ぎ、町の活路を切り開くことが正解だと考えています。

 

ー 一点突破をするのには難しさもありませんか?

「なぜあそこだけ支援するのか」と、批判は浴びますね。しかし批判を上回るだけのメリットがあればいいと思うので、地域のためなら悪者になってもしょうがないです。

もちろん町がお金を出していない産業等を否定しているわけではありません。政策目標のための、インセンティブをつくるための財源の使い方なので、ワイン産業への転換を強要する意図はないです。

 

町職員にとって、経験が一番の糧

 

ー 町の職員の皆さまには、どんな期待をされていますか。

職員には出来る限り外部の人と接する機会を持って知見を広げてほしいと思っています。

新型コロナウイルスの流行以前は、海外出張に行かせたこともありました。他にも、国内の出張に若手の職員のみで行かせて、積極的に経験を積ませています。町の人との交流に関しても背中を押しています。ワインの町なので、町民とワイン会をやってみてもいいのでは、なんて思いますね。

 

ー 企業版ふるさと納税の人材派遣型など、自治体が民間の人材を受け入れる制度もありますが、こういった外部の人材の活用についてはどうお考えですか?

調整力・突破力がある人材に来ていただけるのであれば嬉しいですね。批判を受けても自分を信じて突き進むことができて、かつ全体をうまく調整することもできる人がいれば、と思います。特に突破力については、地方で必要なスキルではないでしょうか。

 

人口が減少しても、豊かなまちへ

 

ー さいごに、今後の抱負をお願いします。

余市町は、大都市・札幌やリゾート地・ニセコからも近い地域です。今後はこの町のワインを、そしてワイン産業から広がる産業を世界に向けて発信していき、人口が減っても高い所得を維持できるようなまちづくりをしていきたいと考えています。

 

おわりに

非常にグローバルな視点を持ち、余市町のみならず、日本の未来のために何をするべきかを考えておられる齊藤町長。さらに「地域のためなら悪者になってもしょうがない」と言い切れる心持ちには、並々ならぬ愛郷心を感じました。

 

貴重なお話をいただきありがとうございます!

 

|→ 【東かがわ市長インタビュー】ずっと住み続けたい、未来に期待が持てるまちへ

その他の記事を読む

自治体と共に地方から日本をおもしろく