今回の首長インタビューは、香川県東かがわ市の上村一郎市長。瀬戸内海に面した東かがわ市で、人口減少や少子高齢化対策に取り組んでいます。キーワードは「ワクワク」。まちづくりに対する想いをお聞きしました!

kanno インタビュアー:株式会社MAKOTO WILL 代表取締役 菅野 永

地方銀行、公務員を経て2015年1月にMAKOTOへジョイン。2018年7月にMAKOTOグループ化に伴い、MAKOTO WILL代表取締役就任。

 

まちの空気を変えたい、ワクワクするまちへ

 

上村市長のこれまでの経歴と、市長に就任したいと思ったきっかけを教えてください。

私は、東かがわ市内の中学校を卒業後、陸上自衛隊に入隊し、地元を離れました。24歳で東京の大学に進学し、その後は広告代理店に勤め、香川県に帰ってきたのは35歳の時です。国会議員の秘書として U ターンしました。20年ほど離れていた地元に帰ってきたら、人口は減少し、少子高齢化も進んでいて、まち全体の空気が沈んでいるように感じました。東京から帰ってきたことについて、周囲の市民の方が「帰ってこんでええのに。東かがわには何もないで」と口にされていたのが悲しくて、この空気を変えたい、未来に期待が持てるようなワクワクするまちを作りたい、と強く感じるようになりました。

 

様々な業界を経て市長に就任されたことは、大きなキャリアチェンジだと思います。市長になる、という大胆な意思決定ができた背景には、どのような想いがあったのでしょうか。

市長や政治家になることは目的ではありません。東かがわ市のために、自分には何ができるのかということを常に考えてきました。自衛隊や大学、広告代理店、国会議員秘書など、これまでの様々な経験を振り返ったときに、自分にしかできないことは何か、ということを考えて行きついたのが、市長という職でした。

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地域活性化のポイントは、若者支援と継続的な経済

 

現在子育て支援や定住支援など、次世代に向けた支援に力を入れているようですが、ここにはどのような意図があるのでしょうか。

東かがわ市の高齢化率は40%を超えています。これからも高齢化率は上がっていくでしょう。高齢者福祉を維持し、よりよいものにしていくためには、次代を担う若い世代の存在が不可欠です。東かがわ市は今、若い世代に重点を置き、評価をしてもらえるまちづくりをしていこうという方向に舵を切っています。若い世代に評価され、住みたいと思ってもらえるようなまちにしていくことが、高齢者福祉の維持や、まちの持続的な発展につながると考えています。

また、地域を活性化するポイントとして、地元の経済が自立的で、かつ継続的であるということも重要だと考えています。この前提があるからこそ、適切な行政サービスや、より良いおもてなしをするための設備を整えることができるのです。行政は、経済の循環を想定した上で、地域内外の事業者の方々がビジネスをしやすい環境を整えていく必要があると思っています。

 

東かがわ市の、楽しい未来の姿を思い描く

 

上村市長のお話をお聞きしていると、「ワクワク」というキーワードがとても印象的です。ワクワクするまちについて、具体的にどのようなイメージを持たれているのでしょうか。

ワクワクとは、辞書的な表現を使うのなら、これからやってくる未来に対して人が喜びや幸せを感じること、という意味だと捉えています。楽しい未来が見えることが1番大きなポイントです。「これから東かがわ市にどんなことが起こるのだろう」「どんな人が来るのだろう」というような、楽しみや期待がたくさん生まれるまちにしたいと思っています。私は市長になってから2年、このことを言い続けてきたのですが、嬉しいことに今、様々なプロジェクトが比較的若い世代を中心に立ち上がり始めています。

 

その一つが、「東かがわ市わくわく課」です。市役所の外部組織で、東かがわのワクワクする未来を一緒に実現していこう、という理念のもとに生まれました。株式会社ペライチの取締役会長である山下翔一さんを東かがわ市創生総合戦略アドバイザーとして招き、山下さん自らが課長となって、市役所職員や地域、外部の方々と一緒に、東かがわ市を盛り上げてくれています。市役所外の組織なのですが、民間レベルでもっと動いて行こう、と様々な取り組みを始めてくれています。

 

「このまちには何もない」というメンタリティを変えたい

 

新たな取り組みが盛んなことは嬉しいですね。そういった何かが起きているというワクワク感が、人を惹きつけるのかもしれないと思いました。

やはり何かが起きているということが実感できないと、まちのことが好きになれないんだと思います。そしてまちのことが好きになれないと、「このまちには何もない」と感じてしまう。大学時代の知り合いに、東京の丸の内が実家だという人がいるのですが、その人が「丸の内には何もない」と言っていました。謙遜で出た言葉なのかもしれませんが、丸の内に「何もない」わけがない。本当にそのまちのことを好きだったら「うちのまちはこういうのがあって、こういう人がいてね」と、いくらでも紹介したいことが出てくるはずです。自分のまちに対する愛着心に自信が持てないから、「何もない」という表現が出てきてしまうのかなと感じています。この「何もない」という言葉は、他の地域の方からもよく聞く言葉で、東かがわ市も決して例外ではありません。

 

私の地元である仙台でも、そういった声を聞くことがあります。愛着心を持つためには、新しいことや変化を感じられることが大切なのかもしれません。私は一度仙台を離れたのですが、戻ってきたとき、中心部にある定禅寺通りを歩行者天国にして、多くのお店が出店するというイベントがありました。どれもユニークな商いで、こんなに面白い方々が仙台にいるのかと、地元の良さに改めて気づくことができた出来事でした。

まさにそういった感覚を、多くの人が持てるようにしたいです。ただ気を付けたいのが、物理的に何かがあることが、大事なわけではないということ。東かがわ市に何があったら魅力的か、という問いかけに対して、大きなショッピングモールや、外資系のカフェといった回答をよく聞くのですが、便利なお店であるというだけでこのまちを好きになってもらえるのかというと、おそらくそうではないでしょう。先程の丸の内が良い例です。まちを好きになってもらうためには、やはりワクワクするという要素が必要だと感じています。

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行政と民間が共に発展できる官民連携を目指して

 

官民連携について、具体的にどのようにお考えですか。

平成15年に合併した当時、東かがわ市の人口は37,000人ほどでした。今は30,000人近くまで減少していて、数十年後には25,000人を下回るだろうと言われています。しかし、人口が減っても、空き家や子育て支援など、仕事の種類は多岐にわたり、業務量は増加しています。限られた予算内で効率的な市政運営をするために、民間の皆さんの力をお借りする機会が出てくるのではと思います。

 

官民連携というと、業務委託や指定管理制度に結び付けてしまうかもしれませんが、私はそういった単純な民間委託という形にはしたくないと思っています。たとえば、行政側は、支出をできるだけ抑えながら地域の問題を解決でき、民間側はそのまちで新しい取り組みを行い、実績を積む、といったような、一緒に課題解決を考えていくパートナーのような関係性を結んでいければと思っています。

 

ワクワクするまちに必要なことは「受容性」

 

最後に、市民の皆さんや職員の方々へのメッセージと、今後の抱負をお聞かせください。

今、東かがわ市では新しい取り組みがたくさん始まっています。東かがわ市がこれからも持続可能なまちになるためには、門戸を開いて、そういった新しいものや人たちをより認め合える、受容性のある社会にしていく必要があると思っています。様々な物や文化、人を受け入れることができることが、ワクワクするまちの一つの条件なのではないかと思っています。市民や職員の皆さんと一緒に、受容性を持ち、ワクワクする東かがわ市をつくっていきたいです。

また、そういった新しい取り組みについて、しっかりとした結果を出していきたいと思っています。新しい取り組みが話題を集めたり、以前より経済状況が良くなったりというような、結果を追求し、東かがわ市の自立的で継続的な経済活動の発展に繋げていきたいと思っています。

 

 

上村市長の、まちづくりに対する熱い思いをお話しいただきました。東かがわ市の未来に向けて、市長自身も、ワクワクしてまちづくりに取り組まれているということが伝わってくるインタビューでした。

貴重なお話をありがとうございました!

 

|→ 【夕張市長インタビュー】危機的状況で見えた地域のつながり。コンパクトシティの推進による、住みやすいまちへ。

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