今回の首長インタビューは、秋田県由利本荘市の湊貴信市長。

由利本荘市長として、SNS等も積極的に活用して自ら情報発信につとめられています。立候補に至るまでの経緯や市政にかける想いを伺いました。

kannoインタビュアー:株式会社MAKOTO WILL 代表取締役 菅野 永

地方銀行、公務員を経て2015年1月にMAKOTOへジョイン。2018年7月にMAKOTOグループ化に伴い、MAKOTO WILL代表取締役就任。

 

市議会議員から市長へ、そのきっかけとは。

 

市長を志した経緯や、出馬を決意した時の思いをお聞かせいただけますか。

立候補の前に市議会議員を3期務めていました。3期目で十数年経ち、由利本荘市を見て、とても閉塞感を感じていたんですよね。市民の皆さんといろんな話をしている中でも、諦め感というか、この先人口減少で市も縮小していくだろうし、将来に夢を持てない、諦めムードを感じていて。これじゃ駄目だなっていう思いをずっと沸々と持っていて、私でよければ、私なりの考え方で市を運営させてもらえば、もっと違う方向にいけるのではないかなという思いがありました。思い切って当時所属していた会派や仲間に話をしたところ、多くの人に賛同してもらえたこともあり、思い切って(選挙に)向かってみようかな、と。

なぜそういう閉塞感が生まれるのか、と原因を考えていくうちに、一つ思い当たることがありました。由利本荘市は1市7町が合併してできた市で、市の中に8地域あります。合併前は行政区域が小さかったこともあって、役場と住民の方の距離感がすごく近かったわけですね。それが、合併したことで役所がすごく遠くなってしまった。
各地域に「支所」という物理的な建物はあるけれども、以前に比べて役場を遠く感じてしまう原因は何だろう?と考えた結果、市からの様々な情報発信、「今、市はこんなことしてます」「こんな考えで今こういう事業を今進めようとしています」というメッセージがなかったからではないかな、と。それが閉塞感に繋がったり、役所が遠いと感じることや諦めに繋がっているなというのを感じてですね。

そういうことなら、色々な媒体を使って市から情報を出して、市の取り組みを伝えることで、「今はこういうことをやっています」「こういうことを考えています」とみんながわかると、閉塞感を多少打破できたり、希望を持てるのではないか、それなら自分にもできる、と思ったわけです。

あとは、私が立候補するまで、市長選は2期連続無投票でした。私が立候補しなければ、おそらく3期連続無投票だったと思います。閉塞感ってのはそういうところにもあったのではないかと思います。万が一、私が落選しても、市民の皆さんに選択肢を与えるというか、議員の一つの役目として、3期連続無投票をそのままにしておくのもなと・・・市民の方に選挙に行く、いろんな政策を聞く、そういう場を作るっていうのも、議員の役目だよな、という思いもあったのが立候補した経緯ですね。

 

ありがとうございます。そうした背景があって、無事就任されて一期目ですが、市長として特に大切にされたい信念はおありですか。

政治信条は「市民生活が一番」。大変シンプルな言葉ですが、これだけはぶれずにいたい。そしてその先にあるのは、しっかりと情報を伝えること、しっかりと話を聞くこと。解決にはならなくても聞いてもらうことで安心感が持てたり、気持ちが落ち着いたりということはあるでしょうから、まずしっかりと話を聞くということがやっぱり大事だなと思ってます。

もちろん職員にもそう言っていますし、私もしっかり話を聞いて、情報や思いをしっかり伝える事を大事にしています。

 

直接声を届ける「市長への提案」とSNSでの発信

 

市長になられてから、市民の声をより聞いていくために、新たに取り組みは始められたのでしょうか。

「聞く」という点では「市長への提案」という新たな取り組みを始めました。市民の皆さんから提案をいただいて、「こういう提案がありました」「この件については市としてはこう考えています・こういう取り組みをしています」と市のホームページにお返事を載せています。

 

 

後は、FacebookとTwitter、Instagram、YouTubeやブログで、情報発信をしています。私が発信した内容にコメントで意見をいただいて、それに私が返信する、という双方向のやり取りは結構やってますね。いろんな人から「秘書課の方がやってるんですよね?」って聞かれますが、SNSの発信・返信は全て私がやっています。全て、自分の責任において発信しよう、と。

YouTubeは、地元のケーブルテレビ「ゆりほんテレビ」で、政策的な話や今年度の補正予算の中身について、ちょっと堅めの話をする『Open!~湊市長に聞く~』と、市で行われているいろんな事業を体験しながら私が紹介する『はっしん!由利本荘!!』の2つのコーナーを持っています。広報紙や市からのお知らせを読むだけでは、なかなか伝わりきらないので、自分の言葉で伝えることをやっています。

新たに始めた事業としては、「ゆりほんICT子供の学びアップデートプラン」が進行中です。議員時代から、これからの子供たちが備えていて欲しいスキルは英語とIT、と思っていて、プログラミングができる、まではいかないにしても、ブラインドタッチができるとか、臆することなく外国の方ともお話しができる。そういうことを進めています。

IT系の授業に関しては、ICT支援員という国の制度があります。ただ、支援員の方を全学校に配置することができないんですね。予算の面でもですし、由利本荘市は秋田県で一番面積が大きな市で、市内に小中学校が23校、端から端まで移動するのに3時間もかかる市なので。その点は、秋田県立大の学生の方々に、ICT支援員として各学校に来ていただいて、授業をサポートしてもらっています。IT系の学部なので、みなさん詳しいんですよね。独自施策で昨年度から実施していますが、大学生も子供たちに教えるのを楽しんでくれているし、子供たちも学生を慕っているし、学校の先生方も大喜びで、みんなハッピーです。

他には「由利本荘プロモーション会議」という取り組みも昨年度からスタートしました。
由利本荘市の20代から40代の皆さんを対象に「由利本荘市の政策課題解決に力を貸してほしい」と会議に参加してくれる人を公募をしたところ、100人を超える方々から応募がありました。生まれ育ったこの地域を何とかしたいと思ってる若い人ってこんなにいたんだなと思って、すごく嬉しかったし、こちらもワクワクする気持ちでいっぱいです。

 

職員の方からも意見や提案をあげられる仕組みづくり

 

このインタビューは、市の職員の方にもお読みいただきたいなと思っています。
日ごろからコミュニケーションを取られてると思いますが、改めて、職員の皆さんに対するメッセージをお願いできますか。

しっかりと市民の話を聞いてほしい、ということですね、
役所は、縦割りで動きます。「これはうちの課の担当ではなく、あっちの課が担当」ということは往々にしてあって。ただ、自分の課と、例えば別の課と一緒に取り組めば、今市民の方が困っていることを解決できる、そういう状況ってあるはずなんです。それを話を聞いて、それは無理、できません、とすぐ結論を出してしまうことがあります。まずはしっかりと話を聞いて、「あそこの課なら補助金があるな」と紹介してあげるとか、一緒に何かやってあげる、という提案ができますよね。

役所は、市民の方の駆け込み寺です。何かしらの結果を求めて相談してきているのに「できません」で門前払いするのではなく、しっかり話を聞いて、どうやったらそれを解決をしてあげられるか、何ができるかを常に頭に置きながら、できる理由を考えて仕事をしてほしいと思いますね。

 

組織的、人事的な施策で新たに始められたことはありますか。

市民のみなさんの声をあげていただくのと同様に、職員提案もガンガンあげてきてほしい、と言っています。役所の職員は全部で1,000人ぐらいで、以前は2,30件だった提案数も、300件以上に増えた年もありました。特に若い世代の提案は柔軟性があっていいです。

思っていることは、相手が市長であれ部長であれどんどん声は上げてもらいたい、臆することなく声を上げてほしいですね。

 

「希望あふれる、やさしい由利本荘」を目指して

 

最後に、今後の抱負について、お願いします。

目指すのは「希望あふれる、やさしい由利本荘」です。
冒頭にお話しした「閉塞感の打破」を含めて、「今、市ではこんなことをやっている」というのがわかって、市政に対して希望を持ってもらえると嬉しいですね。

洋上風力発電関係の風車、日本で一番大きいプロジェクトの計画がまず今動いてますし。

その他にも、「鳥海ダム」というダム建設も進んでいて、もう9年で完成します。
また、電力供給のための送電網の工事も動いていて、これだけ多くのビッグプロジェクトが複数進行しているのはおそらく県内でもないので、明るいニュースがこんなにあるっていうことなんですよ。それらの事業による経済効果や雇用促進もあります。

あとは、スキーリゾートもあるし海水浴場もある、そういう地域は少ないんだよ、素晴らしい地域なんだよ、ということを市民の人にも伝えて、対話をしながら希望あふれる、そして優しい由利本荘市を作っていきたいですね。

おわりに

対話を通じて、市民のみなさん・職員のみなさんと信頼関係を築いていかれようとする姿勢が、「市民生活が一番」という言葉に集約されているんだな、と心に響きました。
積極的な情報発信にも今後も注目していきたいと思います。

貴重なお話しをお聞かせいただき、ありがとうございました!

自治体と共に地方から日本をおもしろく