今回の首長インタビューは花巻市の上田東一市長。

花巻市では、中心市街地の活性化に向けて、公共施設の整備やリノベーションによるまちづくりに取り組んでいます。

上田市長に、具体的な取り組みや今後に向けた意気込みをお聞きしました!

花巻市 上田東一市長

三井物産、ゼネラル・エレクトリックの金融事業系企業、廃棄物処理会社の代表取締役を経て、2014年より現職。

 

 

インタビュアー・執筆:佐藤桃子

東北大学経済学部在学中。
2018年2月にMAKOTOグループにインターンとして参画。地方自治体向け新規事業開発、広報等の業務に従事。

 

自らの手で花巻市のまちづくりに貢献したい

 

ーーこれまでの経歴を教えてください。

私は花巻市で生まれ育ち、高校卒業後に東京の大学に進学しました。

その後、総合商社に就職してからは、法務やアメリカに関する業務に携わり、10年間アメリカに住んでいた時期もあります。

総合商社から外資系企業に転職して2年ほど働いたところで、父に病気が見つかりました。

このことがきっかけで花巻市に帰る決意をし、父が経営していた廃棄物処理の代表取締役に就任しました。

 

ーーその後、どのような経緯で市長に就任したのですか?

市内で様々な活動をしている中で、「選挙に出てほしい」というお話は何度か頂いておりました。

花巻市の課題や問題点は、仕事をしている段階で私なりに見えていたこともあり、「自らの手で花巻市の町づくりに貢献したい」という想いが芽生え、市長選に挑戦することにしました。

「住みやすい」「住んで楽しい」要素を加えてまちを元気にする

 

ーー「花巻市の課題」とおっしゃっていましたが、立候補当時、課題に感じていたことは何ですか?

「まちなかに元気がない」ということが大きいですね。

私が子どもの頃は、花巻市は県内では盛岡市に次ぐくらい、元気があったように見えました。

しかし近年は、企業の出先機関も花巻市から近隣の市に移るという例もあり、少しずつ衰えている部分があります。

 

ーーまちを元気にするために、どのようなことが必要だとお考えですか?

「住みやすい要素」と「住みたい、住んで楽しい要素」の2つをまちに付け加えることが必要だと考えています。

単に商業施設を設けるとか、ベッドタウンと捉えてまちづくりを進めるのではなく、まち自体に魅力がないと、住んだり過ごしたりする上で楽しくないと思います。

また、花巻市は中心市街地が広く、密集度が小さいことが特徴です。

今の人口規模で市街地の各所に人が集まるような場所を作るのは、難しいです。

そのため特定のエリアに焦点を置いて、そこが活性化するように都市の機能を配置するのが不可欠だと考えています。

 

ーー上記のことに関して、具体的に取り組んでいることがあれば教えてください。

具体的な取り組みは以下の表の通りです。

施策 概要
「総合花巻病院」移転整備 既存施設の老朽化や市民のアクセス性の向上に対応するため、総合病院を中核とした複合施設を街中に移転・新設。
「花巻中央広場」整備 商業施設跡地に日常の憩いの場所、まちなかの賑わいづくりや活性化のためのイベントの場所など、多様な活動の創出拠点を目指す広場として整備。
災害公営住宅「シティコート花巻中央」子育て世帯向け地域優良賃貸住宅「ルサントル」の整備 まちなかエリアへの居住を推進するために整備。
リノベーションまちづくり まちに存在する遊休不動産を新しい使い方で活用し、新しいビジネスと雇用を創出しながらエリア全体の活力を上げることを目的とした一連の活動。

医療機能をまちなかに移転、市民のまちなかへの来訪に期待

 

ーー今回は「総合花巻病院の移転」と「リノベーションまちづくり」について、特に詳しくお話を伺いたいと思います。
まず総合花巻病院移転に至った経緯について教えてください。

花巻市では、高校、大型事業所、県立病院等が郊外へ移転した結果、市街地におけるにぎわいの衰退に拍車がかかり、市街地に居住する人の数も減ってしまったという状況にありました。

国土交通省が創設した「立地適正化計画制度(※)」に基づき、上記の表のような取り組みを行うことに決めました。

その中でも老朽化が進む総合花巻病院を移転し、「まちなか」に市民の健康を守る総合病院を確保することが、喫緊の課題と考え、移転に踏み切りました。

2016年度から移転に向けた取り組みを開始し、2020年3月1日に開院する予定です。

 

※立地適正化計画制度
各自治体が「コンパクトなまちづくり」を実現するために作成するプランのこと。

具体的には、都市全体のバランスを見ながら、居住機能や医療・福祉・商業、公共交通等のさまざまな都市機能を適切な位置に誘導するような計画で、様々な特例や税制措置を受けることが出来る制度。

国土交通省「『都市再生特別措置法』に基づく立地適正化計画概要パンフレット」を参考に当社で作成

 

ーー開院まであと少しなのですね!
新しい総合花巻病院はどのような病院になる予定ですか?

特徴は2点あります。

1点目は、「地域包括ケア」が可能な病院であることです。

一般急性期向けの病床はもちろん、良質なリハビリテーションの提供や、「在宅復帰支援」や「在宅療養」を支えるための「地域包括ケア病棟」の導入も行っています。

また、同じ敷地内に介護付き有料老人ホームも併設します。

 

※地域包括ケアシステム
重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、医療・介護・予防・住まい・生活支援が包括的に確保される体制。

厚生労働省「地域包括ケアの構築について」より引用

2点目は、花巻高等看護学校を併設しているほか、一部市民の皆さんのご子弟も受け入れる企業内保育園を設置することです。

これらによって、学生や市民がまちなかに集う契機になると考えています。

画像は総合花巻病院 新病院特設サイト「完成イメージモデル」より

 

「遊休不動産×民間事業者」でまちに新たなコンテンツを創出

 

ーー続いて、「リノベーションまちづくり」について教えてください。

リノベーションまちづくりも、上述の「立地適正化計画」を策定し、市街地の活性化をはかるために取り組む手法の一つです。

リノベーションまちづくりとは、空き店舗や空き地など遊休化した不動産をリノベーションし、そこで民間事業者が新たにビジネスを始めるというものです。

 

ーーどのようなきっかけで、リノベーションまちづくりを始められたのですか?

岩手県には紫波町という公民連携が盛んな自治体があります。

市長就任直後に紫波町のまちづくりを手掛けている事業者の方とお話しする機会がありました。

このとき、「これまでには無かったような面白い発想を持つ民間事業者の力を借りながら、まちづくりをしていくのが、市の活力を生み出すために必要なのではないか」と考えるようになりました。

同時に、紫波町の方に「リノベーション」を活用したまちの活性化についても教えて頂き、「花巻市も挑戦できるのではないか」と思いました。

これらのことを受けて、リノベーションまちづくりの専門家をお招きし、市内で講演会を開催することにしました。

この講演会に参加してくださった市内の事業者の皆さんが中心となり、リノベーションまちづくりに取り組み始めたのがきっかけです。

 

ーー市内の「リノベーションまちづくり」の代表的な事例を教えてください。

やはり、マルカン百貨店ですかね。

マルカン百貨店は花巻市の老舗デパートで、特に6階の大食堂は県外から観光客が押し寄せるほど人気がありました。

しかし、施設の老朽化や耐震補強に対応するために多額な費用を要することが原因で、2016年6月に閉店することとなってしまいました。

「花巻のシンボルであるマルカン百貨店を無くしてはならない」という想いのもと行動を起こしたのが、市の若い事業者の方です。

彼らがビルの所有者からマルカンビルを借りるという形で、運営を引き継ぐことになりました。

まずは大食堂の復活に向けて老朽化が進む設備等を中心に改修し、2017年2月に6階の大食堂を再オープンさせました。

 

ーー市としては、再オープンに向けて何か支援を行ったのですか?

我々も、「ふるさと融資(※)」という形で一部資金の支援を行いました。

加えて、これから実施が予定されている耐震工事についても、国、県とともに市が支援することを決めました。

しかし、何より、前述の事業者の方の存在が無ければ、マルカン百貨店の復活は有り得ないことでした。

もし百貨店が閉鎖後、廃墟として残っていたら、まちなかに与える負のインパクトは非常に大きかったと思います。

 

※ふるさと融資
地域振興に資する民間投資を支援するために、自治体が長期の無利子資金を融資する制度のこと。
ふるさと融資を行う場合、地方公共団体は資金調達のために地方債を発行し、その利子負担分の一部(75%)が地方交付税措置される。

一般社団法人地域総合整備財団「ふるさと融資」を参考に当社で作成

若者が欲しいと思うモノを自ら作ることを後押し

 

ーーまちなかの活性化や、公民連携の分野における意気込みをお聞かせください。

市が事業者や起業家を誘致しなくても、自ずと集うまちを作っていきたいです。

リノベーションまちづくりの取り組みの中で、若者が集まる場の成功事例が出来れば、「自分たちも花巻のまちづくりに参加したい」という事業者が自然に現れることが期待できます。

また、若者たちが自分たちの感覚で欲しいと思うモノを作るのを後押しすることを、市の役割だと自覚し、取り組んでいきたいと考えています。

 

ーー最後に、職員の皆さんにはどのようなことを期待しますか?

市の職員を見ていると、「ここは自分の得意分野ではないから、他の人に聞こう」という感覚が足りないと感じることがあります。

自ら何でもやってみようとするのは良いことです。

しかし、このような風潮は、1人で課題を抱え込み、どうすれば良いのか分からないまま時だけが過ぎてしまうという状況になりかねません。

自らの専門性や得意分野を活かし、それ以外のことはもっと得意な人の知識も活用するという意識が浸透すれば、職員のレベルはもっともっと上がり、活力高いまちに繋がると思います。

リノベーションなど、新たな手法を積極的に取り入れ、まちなかエリアの活性化を目指す姿が印象的でした。

貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうござました!

 

 

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