今回のインタビューは宮城県松島町の櫻井公一町長。

松島町では、少子高齢化に対応するため、移住・定住の促進と若者がチャレンジしやすい環境の整備に取り組んでいます。

これらの取り組みの具体的な施策や、成果について櫻井町長にお聞きしました。

松島町 櫻井公一町長
松島町議会議員、同議会議長を務めたのち、2015年より現職。
松島町「こちら町長室

 

 

インタビュアー・執筆:佐藤桃子
東北大学経済学部在学中。
2018年2月にMAKOTOグループにインターンとして参画。地方自治体向け新規事業開発、広報等の業務に従事。

 

 

震災からの復興への強い想いを抱き、町長選に立候補

 

ーーまず最初に、これまでの経歴をお聞かせください。

町長に就任する以前は、松島町議会議員として5期務めており、4期目からは、議長の職を務めておりました。

 

ーーその後、どのような経緯で町長に就任されたのですか?

私が町長選に立候補した一番大きな理由は、東日本大震災からの復興をなんとしてでも成し遂げなければならないという思いがあったからです。

震災の直後は、とにかく復旧、復興が思うようには進みませんでした。

特に雨水、排水対策を全く進めることができず、震災のあった年の秋に発生した台風15号でも地盤沈下の影響から浸水被害が出てしまいました。

このような状況下において、議会の中で復旧・復興に対するやるせなさがどんどん高まっていました。

復興期間は10年と決まっているので、この期間内になんとしてでも復興計画を完了しなければなりません。

当時議長として復興に関する議論を行う中で、このような状況が続くなら、自分が町政の舵取り役として進める他ないのかなと考えるようになりました。

正直な話、東日本大震災が起きなければ、私は町議会議長の任期を全うし、その後政界から退いていたのではと思います。

住みやすさをアピールし、移住・定住を促進

 

ーー町全体を見て、解決が最も急がれる課題は何ですか?

他の自治体もそうだと思いますが、少子高齢化とこれに端を発する社会保障費の増加への対応です。

これらに対応するためには、地道な取り組みではありますが、若い世代に松島町を定住先として選んでいただいたり、町内で生まれ育った子どもが進学や就職で町外へ出てしまったとしても、また松島に戻っていただき、新たな家庭を築けるようなまちを作っていくことが急務だと考えています。

これらのことを実現するために、松島町では移住・定住の促進と若者が新たな起業にチャレンジしやすい環境の整備を行っています。

 

ーーそうなのですね。

まず、「移住・定住の促進」に関して、具体的な取り組みをお聞かせください。

震災以降、移住・定住の促進を目的とした補助金の交付を行うとともに、首都圏でのPR活動や移住相談などを実施しております。

PR活動に際して、以下のようなガイドブックも作成しました。

移住・定住促進ガイドブック「松島暮らし~心豊かなスローライフ 松島で素敵な毎日を~

先述の補助金は、新たに松島町に住宅を取得した方を対象に最大100万円の補助金を交付しています。

その交付件数は以下の表の通りで、一定の成果を生み出しています。

定住補助金交付件数 転入者
426件 282世帯847人

 

ーーこのような成果を出すことができた理由はどのようにお考えですか?

定住、移住先に松島町を選んでいただく理由は2つあると考えています。

1つ目は安全面です。

松島町というのは、津波被災を受けた沿岸部の中では、津波による被害が少ない自治体です。

なぜなら、松島湾には数多の島が存在し、この島々が防波堤の役割を果たし、津波から松島を守ってくれたからです。

このことがあり、被災された沿岸市町の方が、より安全な松島町へ移住されるケースが多く見受けられます。

2つ目は、利便性が高く、住んで楽しい町である点です。

松島町は食があって、観光名所もあって、ゴルフ場や釣り等、遊ぶ場所もあって、衣食住全てで満点ではないかもしれませんが、全て平均点以上なのではないかと思います。

また、町内にはJRの駅が合計7つあり、三陸自動車道も町内を通っており、インターチェンジも3つあることから、交通の利便性も非常に良いまちです。

 

事業者や若者の挑戦を応援するまちへ

 

ーー続いて、「若者がチャレンジしやすい環境の整備」に関してお聞かせください。

これに関しては「創業者支援事業補助金制度」と「松島高等学校観光科」に関してお話しします。

まず、1点目の「創業者支援事業補助金制度」は、新たに起業した方に対して上限100万円を交付しているもので、2016年に開始しました。

約4年間の間に、この制度を活用して新たに起業された方は15名に上ります。

 

ーーそれは素晴らしいですね!

新たに起業する方が増えたことによって、まちにどのような変化がありましたか?

その15名の事業者の方々が1つのグループのようになって、商工会等の町内の既存コミュニティと連携をとるようになりました。

起業家の熱量を受けて、商工会も新たな挑戦をするなど、商業界全体が活性化している印象があります。

商工会の新たな挑戦の例に、松島高等学校観光科とコラボレーションして、若者の目線を取り入れた旅行や商品の企画をするというものが挙げられます。

 

ーー松島高等学校観光科は、2点目に挙げられていた取り組みですね。

「観光科」というのは全国的に見ても珍しい学科だと思いますが、生徒たちはどのようなことを学んでいるのですか?

松島高等学校観光科は、日本三景「松島」を学習素材として活用しながら、観光産業やそれに関連する産業・業種に携わる人材を育成するために2014年に新設されました。

観光科の生徒たちは、座学の他、以下の表のような実践的な学びを通じて、観光業はもちろん、これからの時代に必要な自分で考えて行動する力を身に付けています。

実践的な学びの例 概要
観光施設実習 ホテル実習、ガイド実習、販売実習等
研修旅行 県内外の観光地、伝統産業、伝統行事等の体験旅行
体験型観光実習 観光農園、田植え、地引き網、茶華道等の体験実習
実践授業 第一線の職業人による実践指導や大学の出前授業等
旅行企画、商品開発 地元産業界や大学との連携による実践演習

中でも「観光ボランティアガイド」というのは大変な好評を頂いております。

こういった学びを通して、「ゆくゆくは地元・松島の観光業に携わりたい」と思う生徒が多く現れることを期待しています。

挑戦者と共に次世代の松島をつくる

 

ーー最後に、今後に向けた意気込みをお聞かせください。

先述の新たに起業した15の事業者のうち、Iターンが3件、Uターンが3件です。

このように、松島に戻ったり、移住したりして新たな挑戦をしたいと考えている方は一定数いらっしゃるので、引き続き、こういった方々を受け入れる土壌を作りたいと思っております。

同時に、こういった町内でチャレンジする若者と顔を合わせて、彼らが今、何を町に求めているのかについて、意見を聞くことが大事だと考えています。

また、松島水族館の跡地に、松島離宮という商業施設が今年の6月末頃にオープンする予定です。

飲食店や物販はもちろん、松島町が保有する歴史資料の展示ギャラリーや、子どもや外国人観光客向けの体験コーナーも設置される予定です。

観光客数は震災前の水準にはまだまだ達していません。

松島離宮のオープンを起爆剤に、観光業全体の活性化を図っていきたいです。

松島離宮の完成予想図(松島離宮公式サイトより)

どの施策も、若者世代の意見を積極的に取り入れようとする姿が印象的でした。

貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!

 

 

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