今回の首長インタビューは、山形県新庄市の山尾順紀市長。

新庄市は、食やまつりを通して地元を盛り上げ、仕事では地元企業の魅力について親子を通じて学ぶ場を設けるなど、長期的な戦略をたて、魅力あるまちづくりをおこなっています。

新庄市の魅力や、将来の展望について山尾市長にお聞きしました!

hisashi_kanno菅野永  HISASHI KANNO

東北大学農学部卒。地方銀行、公務員を経てMAKOTOへ参画。二輪レースで大怪我をした経験から、「残りの人生かけて大きな挑戦がしたい」という思いが芽生え、ベンチャーの世界へ。福祉系ベンチャー企業への出向も経験し、会計・オペレーション改善・販売促進・組織構築など現場での幅広い経験を持つ。 2018年7月にMAKOTO グループ化に伴い、MAKOTO WILL代表取締役就任。

 

転機になった文化財担当。『ふるさとを残す』『歴史を感じる』がテーマに。

昭和50年に地元である新庄市に戻り、市役所の採用試験を受験し、受かったので就職したというのが正直なところです。はじめは事務吏員庶務課に勤務し、そのあと教育委員会社会教育課青年センターで勤務しました。その中で講師として『まちづくり』や『将来の夢・希望』について、何度か話す機会をいただきました。そうしたことを繰り返すうち、「将来はお前が市長になれ」という言葉をかけていただくことがあり、はじめはそんな気持ちはなかったのですが、心の中に残っていました。

その後、たまたま文化財を担当することになり、『ふるさとを残す』『歴史を感じる』ことの大切さを感じ、自分の中で気持ちが固まりました。

いままで多くのことに挑戦してきましたが、最初に取り組んだのは『財政再建』です。

当時、新庄市の財政は『夕張市の次に厳しい』とも言われるほどで、「これは誰かがやらないといけない」と感じていましたが、流れをどう変えるのかが悩みの種でした。

しかし「最後は自分で挑戦しないといけない。批評家や評論家で終わりたくない。」という思いから、行動に出ました。そんな中「お前大丈夫か?」と何度も問い合わせをいただくように。

でもわたしは、『物は考え様だ』と思ったし、『もうこれより下はない。市の職員も優秀だから心配しなくていい。』と何度も自分に言い聞かせ、周囲にも伝えました。ただこのままでは改善は見込めないので、『詰めるところは詰めよう。そのためにも知恵を使おう。』そう考え、市の財政と向き合っていきました。

 

なんでもありすぎて、自分たちの魅力を見失った新庄市

新庄市には多くの魅力があります。しかしそれが逆に自分たちの魅力を失うことになっていました。

それではどう改革していこうかと考え、夏の新庄まつりに次ぐ、祭りを作ることにしました。新庄市は食のレベルがとても高く、そばも代表的なもののひとつです。しかしそれまでは生産調整のための減反で、補助金目的が主でした。せっかくレベルの高いそばを生産しているのに、みんな村山地方に食べに行ってしまう。そこで付加価値を付けるために、『味覚まつり』、『そばまつり』の開催を思いつきました。

いまでは、『春のカド焼きまつり』『夏の新庄まつり』『秋の味覚まつり』『冬の雪まつり』と一年を通して、魅力にあふれたまつりを開催するまでになっています。

 

新庄市の魅力を感じる出来事がもうひとつあります。それは新庄市のゆるキャラ『かむてん』を『幽☆遊☆白☆書』や『HUNTER×HUNTER』で有名な冨樫義博さんに制作していただいたときのことです。かむてんを商標登録するため、集英社を訪問した際に、担当である常務から新庄市の名物であるそばやとりもつラーメンをほめていただいたのです。新庄市の食が認知されていることがとてもうれしく感じました。

他にも昭和初期の歴史的建造物である旧農林省蚕糸試験場が国の登録有形文化財として認められ文化的価値を高めることができました。現在は、『新庄市エコロジーガーデン・原産の杜』として蚕糸研究の歴史を紹介するとともに、施設の一部を活用しギャラリーや産直、ゲストハウスなど交流の場を提供する施設として活用しています。

 

特に人気なのは、毎月第3日曜日に行われる『キトキトマルシェ』です。昭和初期の建物群と緑の木々に囲まれた雰囲気の中で、地域の旬の農産物や手づくりの雑貨、ご当地グルメなど手づくりにこだわった店舗約30店が軒を連ね、県内外の多くの人で賑わっています。また、今春からは、『おやさいcafe AOMUSHI』と称して平日も営業することになり、新庄・最上産の野菜をつかった料理やスイーツを提供しています。市民から見れば古い建造物だったものが、文化的価値を高めることにより、市民の憩いの場へと発展することができました。

このように目を向ければ新庄市には、まだまだ多くの魅力が眠っています。価値を高めていくアイデアと実行力が重要だと思います。

 

 

「なにもない」ではなく「知らない」だけ。「知ること」が地元を支える力。

私の希望としては、住んだ街に誇りを持ってほしいと思っています。地元の人はよく「新庄市には何もない」といいます。魅力もなければ、仕事もない。本当にそうでしょうか。新庄市には『食』も『まつり』も『仕事』もある。

新庄まつりはユネスコ無形文化遺産に登録されています。でも当時は、当たり前のものになっていて、世に出すことさえしていませんでした。東北では5つのユネスコ無形文化遺産がありますが、新庄まつりはそのうちのひとつです。

 

雇用の課題もありましたが、現在では地元から支える仕組みづくりをしています。当時、市内の高校では、県外の企業へ生徒を送り出すことを誇らしく考える風潮がありました。しかしそれは地元に目が向いておらず、若者がどんどんと県外に流出してしまいます。そうではなく、いかに地元の企業を知り、盛り上げていくのか。そのために校長先生や進路担当の先生と企業をまわることにしました。その結果、地元の企業の魅力に気付き、就職する生徒が増えました。さらに市内の小中学校に企業を招き、生徒のみならず、親御さんにも企業の魅力を伝える場を設けています。

このように「なにもない」わけではなく、「知らない」だけなのです。「知ることが地元を支える力になる。」そう考えています。

 

「この町に住んでよかった」と言えるまちへ。安心・安全で、充実した新庄市をつくっていく。

人口減少が進む現代で、今後人口が爆発的に増えるということは期待できません。そうであれば、いかに住んでいる人が充実感を持つかということが大事になります。個人の夢や希望も大切ですが、それよりもまずは足元をしっかりと固めていくこと。まずは高齢者の移動の問題を解決していきたいと考えています。現在は市内循環のバスを走らせていますが、利用者はあまり多くありません。多くの方が自家用車を利用しているため、その理由を解明し、もっと活用してもらえるようにすること。それが安心・安全の暮らしを今よりも一段上へと押し上げる要因になると考えています。

他にも防災無線を導入し、土砂災害警報などで使用しています。いつ何が起こるかわからない現代に、『備えよ常に』の精神で立ち向かうことはとても大切なことです。

そして最終的には、高齢者・障がい者にやさしいまちづくりを進めていきます。

地域を盛り上げていくことは、長期的な戦略が必要なため、結果が出るまでには時間がかかります。しかし、エコロジーガーデンやキトキトマルシェは東北一円から人が集まるほどになりました。いつか見たときに「新庄市ってすごいまちだね」となるように、魅力にあふれ、安心・安全で充実した新庄市をつくっていきます。

 

将来の新庄市の姿を具体的に描き、さまざまな改革を実現していく山尾市長。

長期的な視点とアイディアを形にする推進力がとても魅力でした。

貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!

 

 

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監修 島越彩香 SAYAKA SHIMAKOSHI
宮城大学在学中に、一般社団法人MAKOTOでのインターンを経験。
2019年5月より、MAKOTO WILLに参画。PR・マーケティングチーム、アシスタント業務に従事。

 

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