今回のインタビューは、青森県八戸市の小林眞(こばやしまこと)市長。

八戸市では、周辺7町村と連携し「八戸圏域連携中枢都市圏」(愛称:八戸都市圏スクラム8)を形成しています。

連携中枢都市圏の形成に至るまでの道のりや、具体的な取り組みについて詳しくお聞きしました!

八戸市 小林眞市長
青森県職員、自治省(現・総務省)職員を経て、2005年より現職。
八戸市「市長の部屋

 

 

インタビュアー・執筆:島越彩香
宮城大学在学中に、一般社団法人MAKOTOでのインターンを経験。
2019年5月より、MAKOTO WILLに参画。

 

 

自治省での経験を活かし、八戸市を元気にしたい

 

ーー青森県の職員でいらっしゃったそうですが、その後、自治省(現・総務省)に移られたのですね。
どのような経緯があったのでしょうか?

県に4年在籍した後、国と地方公共団体との人事交流制度の対象者となり、自治省で働くことになりました。

短期の派遣ではなく、完全に身分が変わり4,5年ほど派遣先で仕事をするという制度です。

任期が終わる頃に、自治省の方から「県庁に戻るのではなく、国に残らないか?」とお誘いいただき、そのまま自治省職員として働くことになりました。

自治省時代の仕事で印象に残っているのは、埼玉県浦和市(現・さいたま市)に企画部長として5年半出向したことですかね。

当時の浦和市は、大宮市と与野市との大規模な合併をまさに控えている状況で、合併に関する仕事を経験させて頂きました。

 

ーーその後どのようなきっかけで市長に就任することになったのですか?

自治省で培った経験を活かし、地方創生に関する講演などをしていたタイミングで、「八戸市長選に挑戦してみないか?」とのお声掛けを頂きました。

その頃の私は、行ったことがない県がないほど、日本中の自治体を見ていました。

また、自治省時代は財政局に在籍していた期間が長く、地方自治体の状況の細かいところまで把握しているという自負がありました。

これらの経験や知識が八戸市を元気にするために役に立つのではないかと思い、市長選にチャレンジすることを決めました。

定住自立圏から連携中枢都市圏へ、さらなる連携をめざして

 

ーー八戸市では、周辺自治体と「八戸圏域連携中枢都市圏」を形成しているそうですね。
そもそも広域連携の形にはどのようなものがあるのでしょうか?

広域連携には、主に以下のような種類があります。

「八戸圏域連携中枢都市圏」は、八戸市が中心市となり、近隣7町村と連携し、圏域全体の生活、経済を豊かなものにすることを目指しています。

分類 制度名 制度の概要
共同処理
(複数の市町村で事務を共同処理し、効率を高める)
協議会 地方公共団体が、共同して管理執行、連絡調整、計画作成を行うための制度
機関等の共同設置 地方公共団体の委員会、委員または執行機関の付属機関等を複数の地方公共団体が共同で設置する制度
事務の委託 事務の一部を、他の地方公共団体に行わせる
一部事務組合 地方公共団体の事務の一部を共同で処理するために特別地方公共団体を設ける制度
広域連合  広域的に処理することが適当な事務について広域計画を作成し、それを総合的、計画的に処理していくために特別地方公共団体を設ける制度
中心市と近隣の市町村の連携
(各自治体単位ではなく、「圏域」単位での行政サービスの維持、成長を目指す)
定住自立圏 中心市と近隣市町村が相互に役割分担し、連携・協力することにより、地方圏における定住の受け皿を形成する
連携中枢都市圏 相当の規模と中核性を備える圏域において市町村が連携し、一定の圏域人口を有し、社会経済を維持するための拠点を形成

総務省「共同処理制度の概要」を参考に当社で作成

 

ーーどのような経緯があり、「八戸圏域連携中枢都市圏」を形成することになったのでしょうか?

背景に、周辺7町村との合併の失敗があります。

合併は失敗してしまいましたが、八戸市単体での成長だけではなく、周辺町村の成長にも八戸市がコミットしなければならないと考えました。

そこで、全国的に早い段階で2009年度に「八戸圏域定住自立圏」を形成しました。

「定住自立圏」と「連携中枢都市圏」の大きな違いとしては、①中心となる市の規模と②「圏域全体の経済成長の牽引」や「高次の都市機能の集積・強化」という視点が含まれているか否かになります。

定住自立圏 連携中枢都市圏
概要 人口5万人程度以上の中心市と近隣し、経済、社会、文化または住民生活等において密接な関係を有する市町村とで形成する都市圏 地方圏において、昼夜間人口比率おおむね1以上の指定都市・中核市と、社会的、経済的に一体性を有する近隣市町村とで形成する都市圏
目的 圏域全体で必要な生活機能を確保し、地方圏への人口定住を促進する 「人口減少・少子高齢社会においても一定の圏域人口を有し、活力ある社会経済を維持するための拠点」を形成
中心市/指定都市・中核市の主な役割 生活に必要な機能を近隣市町村に提供 定住自立圏での役割に加えて
・圏域全体の経済成長のけん引
・工事の都市機能の集積・強化
開始年度 2009年度 2014年度
124圏域(R1.10.1現在) 32圏域(H31.4.1現在)
東北地方での主な例 由利本荘市定住自立圏
一関・平泉定住自立圏
大崎定住自立圏
こおりやま広域連携中枢都市圏
みちのく盛岡広域連携中枢都市圏

総務省「定住自立圏構想推進要綱の概要」、「定住自立圏取組事例集」、「定住自立圏構想の今後の展開について」、「連携中枢都市圏の形成の動き」を参考に当社で作成

さらなる圏域全体の成長を実現しようと、2014年度に開始された連携中枢都市圏になることを目指しましたが、圏域の中心となる「連携中枢都市」は一定の法定人口を抱える「中核市」である必要がありました。

「中核市」の人口要件が30万人以上である一方、当時の八戸市の人口は約23万人。

しかし、2014年に中核市の要件が20万人以上に引き下げられたので「連携中枢都市」の条件を満たすことができました。

周りの町村には、定住自立圏の枠組みのまま連携中枢都市圏になることを促し、2017年に晴れて「八戸圏域連携中枢都市圏」の形成に至ります。

 

ーーよく分かりました。連携中枢都市圏を形成する上での成功要因があれば教えてください。

2点挙げられます。

1点目は、周辺地域とのパートナーシップの度合いを徐々に強めたことです。

元々は「八戸地域広域市町村圏事務組合」という形で、リサイクルプラザや清掃工場の運営といった事業に取り組んでいました。

合併は失敗に終わりましたが前述の定住自立圏を形成し、現在の連携中枢都市圏に至ります。

このように広域連合による事務の共同処理や定住自立圏の形成など、連携する素地があったことで、今の形の連携を図れたのではないかと思います。

2点目は、各議会の議員の皆さんの協力です。

当市市議会には、連携中枢都市圏についての議員連盟があるのですが、全ての議員の皆様がこれに参加しております。また、当市主催による「連携中枢都市圏の形成に関する講演会」を年に3回開催しておりますが、各市町村の全ての議員に参加頂いております。

議会からの全面的なバックアップのおかげで、スムーズに進めることが出来ました。

圏域全体の一体的発展を目指し、80もの事業に取り組む

 

ーー続いて、八戸圏域連携中枢都市圏での具体的な取り組みについて教えてください。

定住自立圏の時からの事業も含めると、現在80の事業に取り組んでいます。

事業名 概要
はちのへ創業・事業承継サポートセンター事業 「はちのへ創業・事業承継サポートセンター」において、・圏域の商工会と連携した相談対応

・情報発信等を行い、雇用の場の維持・創出を図る。

マチニワ・マルシェ 八戸まちなか広場マチニワにおいて、圏域市町村の物産、食材を提供するマルシェイベントを開催し、商品開発や販売促進に繋げる。
ドクターカー運行事業 八戸市立市民病院のドクターカーを圏域内にて運行し、救命救急医療の充実を図る。
移住・交流推進事業 ・移住・交流パンフレットの作成・移住・ポータルサイトの開設

・首都圏での相談会・イベント等に出展

・圏域内への移住コーディネーターや定住支援員の配置により、移住・交流の促進を図る。

職員合同研修の開催 八戸市が実施している職員研修プログラムの連携町村職員の参加機会の提供や、合同研修会を開催。

八戸市「八戸圏域連携中枢都市圏の推進」内「八戸圏域連携中枢都市圏ビジョン(圏域の概況・中長期的将来像編)」を参考に当社で作成

 

ーーこれらの取り組みの具体的内容や、成果についてもお聞かせいただけますか?

今回は「はちのへ創業・事業承継サポートセンター事業」と「ドクターカー運行事業」について紹介します。

まず、「はちのへ創業・事業承継サポートセンター事業」については、「起業・創業」「事業承継」の総合相談窓口として、「はちのへ創業・事業承継サポートセンター(通称:8サポ)」を2016年に開設しました。

8サポでは、中小企業診断士やインキュベーションマネージャー、商工会議所の経営指導員が相談に応じています。
2016年の開設から2019年9月までの実績は下記の通りです。

項目 人数
新規相談者数 544名
相談件数 2,250件
起業件数 142件
事業承継成立件数 13件

 

ーー着実に成果が生まれているのですね!「ドクターカー運行事業」についても伺いたいのですが、そもそもドクターカーと一般的な救急車の違いは何なのでしょうか?

一般的な救急車に乗車しているのは救急隊員です。

ドクターカーは、迅速な処置が必要な患者にも対応するために医師や看護師が乗車する車両を指します。

2010年に八戸市立市民病院にドクターカーが配置され、八戸圏域定住自立圏での運行を開始しました。

近年の年間出動件数は年間1200~1500件に上り、東日本トップクラスの出動件数となっています。

また、2016年より、八戸工業大学と共同開発した、出動先でそのまま手術を行うことができる「ドクターカーV3」の運用も行っています。

命が助かる可能性が少しでも高いということは、高齢化が進む地域においては特に重要な点なのではないかと考えています。

住みやすく、雇用もあり、常に笑顔が絶えないようなまちづくり

 

ーー最後に今後の展望についてお聞きします。まず、八戸圏域連携中枢都市圏に関して今後取り組みたいと考えていることはありますか?

連携中枢都市圏の事業として、来年度に東京都内にアンテナショップを兼ねた交流拠点をオープンする予定です。

物産販売や飲食物の提供はもちろん、八戸圏域にどのような働き口があるかといったことや、生活の楽しさについても発信していければと思います。

八戸圏域出身者が首都圏で集まったり、同窓会を行ったりする際の会場の選択肢になれば、ということも考えています。

 

ーー続いて、八戸市の展望についてお聞かせください。

「住みやすく、雇用もあり、常に笑顔が絶えないようなまちづくり」を進めていきたいです。

市街地の活性化や、スポーツ振興、医療や福祉の充実などをこれまでも進めてきましたので、こういった取り組みを今後も着実に行ってまいります。

また、アクティブな職員が多いので、私自身が旗を振るというより、各部署の一生懸命頑張っているリーダーたちを支援するような市長でありたいですね。

地方自治に関する豊富な経験を活かし、広域連携を推進する小林市長。

八戸圏域連携中枢都市圏において、多くの事業を動かし着実な成果を生み出している点が印象的でした。

貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!

 

 

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