7月29日、「創業支援事業の始め方〜八幡平市起業志民プロジェクトから学ぶ〜」と題するオンラインセミナーを開催しました。

 

昨年は参加希望者の倍率が約30倍にまで到達した、創業支援事業「起業志民プロジェクト」のプログラミング合宿「スパルタキャンプ」をけん引し、岩手県八幡平市に多くの定住者・起業家を生み出している中軽米真人さんをゲストにお迎えした今回のセミナー。

 

— 数字はただの<現象>に過ぎない。解くべき課題は、事実の向こう側にある。—

 

本レポートでは、中軽米真人さんがこのセミナーで語った、自治体職員に必要な思考についてお届けさせていただきます。

 

セミナー概要

今回のオンラインセミナーは、元公務員で現在は経営者である弊社代表 菅野と、岩手県八幡平市に多くの定住者・起業家を生み出している自治体職員の中軽米真人さんをゲストにお迎えし、八幡平市の起業志民プロジェクトは<なぜ>成功したのかという視点から、創業支援事業の始め方について学ぶトークイベントです。本セミナー開催の背景はコチラをご覧ください。

 

司会・ゲスト情報

〔司会進行〕

代表 菅野永

株式会社MAKOTO WILL 代表取締役 菅野永

東北大学農学部卒。地方銀行、公務員を経てMAKOTOへ参画。二輪レースで大怪我をした経験から、「残りの人生かけて大きな挑戦がしたい」という思いが芽生え、ベンチャーの世界へ。福祉系ベンチャー企業への出向も経験し、会計・オペレーション改善・販売促進・組織構築など現場での幅広い経験を持つ。 2018年7月にMAKOTO グループ化に伴い、MAKOTO WILL代表取締役就任。

 

〔ゲスト〕

ゲスト 中軽米真人

八幡平市 商工観光課 企業立地推進係長 中軽米真人

1998年松尾村役場入り。業務の傍ら情報化政策に関わり村内ほぼ全域 ADSL化に貢献。合併協議会の情報システム統合担当となり、補助金に頼らず民間の力で市内全域の光ファイバー化を推進。2015年から企画総務部地域振興課地域振興係として「起業志民プロジェクト」を推進し、そのプロジェクトの第一段階のイベント「スパルタキャンプ」では、多くの定住者・起業家を生み出している。

中軽米氏が推進する「スパルタキャンプ」とは、ITの力を活用して起業したいという強い思いを持った方を対象に無料で開催する、短期集中型のプログラミングスクールです。2015年から毎年開催しているスパルタキャンプですが、昨年度は1,712人もの応募があり、倍率は約30倍と大変な人気だったとのこと。度々、ホリエモンチャンネル(Youtube)にも出演しスパルタキャンプの模様を発信されています。

 

 

1.現象の背景にある、<なぜ>を突き詰める。

 数字やデータは単なる現象に過ぎません。つまり、『現象への対処』と『問題の解決』は、因果関係ではないということです。

八幡平市でも、例に漏れず人口減少問題が起こっていました。<なぜ>人口減少が起こっているか突き詰めたところ、出生数が減少しており、その背景には結婚数が減少しているということが分かりました。この現象だけを見ると「結婚数を上げれば人口減少問題が解決する」という仮説を成り立ってしまい、婚活支援や子育て支援をしようと考えてしまいがちです。

 

中軽米氏:結論を出すのが早すぎて、問題の深堀りが全く足りない。深堀りとは、現象の背景にある、<なぜ>を突き詰めることです。先の例では「結婚率数が減少している」という現象が<なぜ>起こっているか、誰も説明ができないままでした。

 

ここが本セミナーの、一つ目の論点

—現象の背景にある、<なぜ>を突き詰める。—

この論点に関して中軽米氏は、自治体職員の中にはこれが出来ていない人が多いのではないか、という問題意識を感じていらっしゃいました。では<なぜ>、少子化が起こるのでしょうか。各世代の人口分布を調べたところ、出生から22歳になるまでの間に、3割の人が八幡平市からいなくなっていることに気づきました。ここで新たに「生まれた町を離れる人が多いのではないか」という仮説が立ちました。仮説を立てたら、次は<なぜ>を探します。

 

ーーー仮説「生まれた町を離れる人が多いのではないか」

ーーー<なぜ>「生まれた町を離れるのか?」

 

県内の大学を調査したところ、学生の3割が県内、7割が県外に就職していることが分かりました。さらに、県内の就職先と県外の就職先を比較したところ、興味深いデータにたどり着きました(下図)。ここでまた新たに「就職が、一つのキーではないか」という仮説が立ちました。仮説を立てたら、やはり<なぜ>を探します。

就職先の比較

 

ーーー仮説「就職が、一つのキーではないか

ーーー<なぜ>「町を離れた人が戻ってこないのか?」

 

中軽米氏:一度出ていった人が、なぜ戻ってこないのかを調査したところ、なんと50%の人が「やりたい仕事がない」と回答しました。ここで新たに「人口の減少は、望む仕事(つまり、若年層では特に情報通信)を求める移動によるものではないか」という仮説を立てることが出来ました。実際、当時の八幡平市には情報通信業と呼べるものがほとんどありませんでした。この仮説に対して私の<なぜ>は尽きました。ここで「情報通信業がたりない」という一つのissueを立てることができました。とはいっても、絵に描いたド田舎のような八幡平市にIT企業の誘致は難しいでしょう。そこで「無いなら、作ればいい!」と考え、「IT起業家の育成」という解決策を考えたのです。

 

ーーー仮説「人口の減少は、望む仕事(つまり、情報通信)を求める移動によるものではないか

ーーー<なぜ>「」

 

issue:情報通信業が足りない

 

数字を一つ一つ立て、積み上げたデータの中に<なぜ>を発見し、その<なぜ>を突き詰めて行くことでしか、課題の本質には到達できないということです。逆に言えば、<なぜ>が尽きた仮説こそが、課題の本質であると言えるでしょう。このプロセスを省き、一足飛びに結論を得ようとする、つまり『現象への対処』が『問題の解決手段』と性急に決めつけてしまうことで、失敗が起きてしまうとのこと。

 

中軽米氏:100回やっても<なぜ>が尽きないこともあります。「これが本質だ」と見誤らないためには、<なぜ>が尽きるまで根気強く繰り返すことです。ある程度「数」繰り返すことを意識し、それでも<なぜ>が生じるのであれば最初の問いにもどって、別な道筋から<なぜ>を深堀してみるとよいでしょう。

 

2.<ファクト>を深堀りせずに、課題は見えない。

 配点がゼロ点の問題をいくら解いても、点数はゼロ点です。重要なのは、配点が高い問題を解くこと。つまり、より本質性の高い問題とは何かを思考することです。

 

中軽米氏:自治体職員の方々は優秀な方が多いです。特に、問題を解く力、問題の解き方を考える力は非常に優れています。しかし、解くべき課題を見極める力はどうでしょうか。「この問題は解く必要があるのか」という思考ができる人は、どのくらいでしょうか。

 

ここが本セミナーの、二つ目の論点

—<ファクト>を深堀りせずに、課題は見えない。—

基本中の基本に思われますが、この論点に関して中軽米氏は、ご自身を含めて出来ていない人が多いのではないか、という問題意識を感じていらっしゃいました。

人口減少は、あくまで社会現象の一つに過ぎません。現象を前にしたとき、<ファクト>を積み上げていくことでしか、本当に解くべき課題は見えてきません。中軽米氏は、人口減少という社会現象を前にしたときに、<なぜ>を突き詰めていくことで「望む仕事がない」という推論にまで到達することができ、そこで初めて「IT起業家を増やす」という解決方法を考え、「起業志民プロジェクト」の提示を行ったのです。

 

中軽米氏:私たち自治体職員がついついやってしまうのは、「先行事例を見てみる」という解決手段をとることです。先行事例から学べることは、「問題の解き方」だけであって、「自分たちの課題の本質」を見極めることはできません。本来は自分たちの課題の本質はなにか、という思考から始めなければならないにも関わらず、このプロセスを省いて一足飛びに結論を得ようとする、つまり「問題の解き方」を探すことから始めてしまうのです。このような失敗をしないために重要なのが、「より本質性の高い課題を突く」ということです。

 

バリューのある仕事の位置

バリューのある仕事に到達するには、より本質性の高い課題を発見することが絶対条件です。このグラフ(上図)には二本の矢印があります。しばしば陥りがちなグレーの矢印は、本質性の低い課題に対して真正面から解いてしまう様子を表しています。一方で赤い矢印は、本質性のある課題に向き合うことで、バリューのある仕事に到達することが出来ています。「課題を解くスタート地点が間違っていないか」を意識して取組む必要があるのです。

 

中軽米氏:自治体職員は、横軸の「課題を解く力」は非常に優れているので、まずは縦軸、つまり課題の本質性を高めることを意識すべきです。解答のクオリティを高めることは、解きながらでも軌道修正して有効な手段を探すことができます。しかし、本質性の高い課題から解き始めるというスタート地点を間違えてしまうと、永遠にバリューのある解にたどり着けません。

 

3.「起業志民プロジェクト」は<なぜ>成功したのか?

「起業志民プロジェクト」が現在の成功を収めたのは、プロジェクトが生まれた背景に重要な要因があり、二つの論点に集約されます。

1.現象の背景にある、<なぜ>を突き詰めた。
2.<ファクト>を掘り下げることで、本質性の高い課題を見極めた。

この二つの論点を徹底されたからこそ、このプロジェクトにたどり着くことができたのだと思います。プロジェクトが成長している理由は、中軽米氏曰く「解答のクオリティを上げるプロセスのなかで、こういった形がたまたまできた、だけの話」と言います。

 

中軽米氏:「起業志民プロジェクト」のエコシステムは、最初から完璧にパッケージされた状態で考えていたわけではありません。当初は、下図①の「スパルタキャンプ」で、まずはプログラミングの技術を教えて起業してもらおうということから始まりました。その後、参加したメンバーたちから「ここに残って活動したい」という声が上がって来たので、②の「5年間無料のシェアオフィス」を提供することにしました。その後、実際に起業するメンバーたちに③「資金調達の支援」を提供すると、いつの間にか育てた起業家が「スパルタキャンプ」で次世代を育てる先生になっていました。よく「最初からこんなことを考えていたんですか?」と聞かれますが、「そんなことはかけらもございません!これはあくまで成り行きです!」と答えています。

 

「起業志民プロジェクト」のエコシステム

成り行きとはいえ、「スパルタキャンプ」が現在のような人気を持つイベントになったのは、中軽米氏のトライ&エラーの繰り返しによる「解答の質の向上」の成果だといえます。最初は大学の学食でティッシュ配りもしていたそうです。どこに周知すれば人は来るのかと考えながら、ここで人を呼びかけても意味がない、ではこっちならどうだろうか、というようにトライ&エラーを繰り返した結果、いつの間にか世界中から支持されるイベントに成長していったのです。

 

中軽米氏:これが最適解かと言われたら、実はまだそうではないと思っています。いろんな周知の方法であったり、どこでどうやって人を集めるのか、といったところをこれから色々試そうと考えています。

中軽米氏:最近「視察させてください」と言われることが増えていますが、申し出を受けた際には必ず「うちに来ても何の参考になりませんよ」と必ず言うことにしています。なぜなら、「同じ課題が、あなたの町にもあるんですか?」という疑問があるからです。視察で見るのは、先進事例集と同じで、あくまで「課題の解き方」なんです。模範解答集であって、問題の立て方集ではないのです。

 

昭和の時代に視察が流行ったのは、実際にどこの町にも同じ課題があり、視察に意味があったからです。ところが現代は、issueも、まちの発展形態も、資産も、多様化しています。だからこそ、これからの時代は多様化した課題を解決するために、「問題の解き方」を移植するのではなく、問いを立てて課題を見つける力が求められます。