首長インタビュー第14弾は、岩手県北上市の髙橋敏彦市長。

北上市では、「『あじさい都市』きたかみ」を掲げ、地域コミュニティ活性化に向けて積極的に取り組んでいます。

市長に就任する以前の活動や、北上市の展望についてたっぷりお聞きしました!

hisashi_kanno

菅野永  HISASHI KANNO

東北大学農学部卒。地方銀行、公務員を経てMAKOTOへ参画。二輪レースで大怪我をした経験から、「残りの人生かけて大きな挑戦がしたい」という思いが芽生え、ベンチャーの世界へ。福祉系ベンチャー企業への出向も経験し、会計・オペレーション改善・販売促進・組織構築など現場での幅広い経験を持つ。 2018年7月にMAKOTO グループ化に伴い、MAKOTO WILL代表取締役就任。

 

 

市民活動をサポートするNPO法人の立ち上げ

市長に就任する以前は、建築家として活躍したり、青年活動に携わったりしていたという髙橋市長。

ある時、市民活動の重要性を見出し、新たにNPO法人を立ち上げるに至りました。

「大学院を卒業後、地元の北上市に戻り、父親の設計事務所の手伝いをしながら、青年会議所や商工会議所の青年部などで活動していました。

そんな中、1995年に阪神淡路大震災が発生。

当時、震災の影響で行政がうまく機能できない状況下で、NPOによる支援活動が注目を集めていました。

その後、1998年のNPO法の制定をきっかけに、仲間と『市民活動を考える会』を設立。

学ぶ中で、『行政だけで地域を支えるのは財政的にも難しいから、市民は市民の役割を果たさなければならない』と考るようになりました。

そこで、市民活動をサポートするためのNPO法人を立ち上げ、代表に就任しました。」

 

地域に入り込み、”人口減少時代の地域のカタチ”を構想

NPO法人での活動を続ける中で、人口減少時代の北上市の生存戦略について考えるようになったという髙橋市長。

そこで注目したのが「地域コミュニティの活性化」です。

「ある時、『北上市の中心市街地は駐車場とシャッターが目立つようになってきた。このままでは、市はどんどん衰退してしまうのではないか。』という危機感を持つようになりました。

同じ危機感を持つ仲間たちと共に、人口減少に耐えられる町の形を考える中で、”コンパクトシティ”という概念にたどり着きます。

しかし、点在する農地や森林を守らなければ、日本の自然環境や産業を維持するのは難しい。

そのため、コンパクトシティに加えて、それぞれの地域ごとの、地域コミュニティの活性化が必要だと考えました。

市にも『北上市内の16の地域それぞれに、中心拠点を整備してはどうか』という提案をさせて頂きました。

しかし、当時はまだ人口が増加していましたので、なかなかその考え方は受け入れられませんでした。

地道に活動していくしかないということで、国土交通省の補助金も活用しながら、16地域でワークショップを開催し、『それぞれの地域がどうすれば元気になるか』ということを探りました。

その2年間の活動の中で生まれたのが、現在の町づくりの指針にもなっている『あじさい都市』構想です。

この都市構想を実践し、その成果を計りたいと考えていた時、先輩達から『市長としてまちづくりをやってみたらどうか』と言われ、迷いましたがチャレンジすることにしました。」

 

 

地域住民が意識的に考え、行動する「まち育て戦略」とは

北上市の16の地域をあじさいの花に例えた「あじさい都市」構想。

人口増加を前提とした都市部の拡大傾向を見直し、16の地域の資源を活かしながら自立したまちづくりに取り組んでもらい、都市拠点と地域拠点の連携・共生を目指すというものです。

実際にあじさい都市を実現するために、3つの戦略を策定したといいます。

「1つ目は都市全体を支える都市拠点と、それぞれの地域の地域拠点を決めること。

拠点を決めたら、それぞれ地域内の歩いて行ける範囲内で生活に必要な施設を集約します。

2つ目は都市拠点と地域拠点とを繋ぐこと。

繋ぐというのは、車が運転できない人でも移動できるよう、公共交通を整備することと、防災情報などが隅々まで行き渡るような情報ネットワークを整備することの2つの意味があります。

3つ目は、その名も『まち育て戦略』です。

地域拠点を整備するにあたって、行政だけではなかなか前に進まなかったり、行政が先導しても、住民の皆さんが満足いくようなものが出来上がらなかったりすることが予想されます。

地域の皆さん自身に、地域拠点のあり方を考えて頂き、それを行政と協働で創っていく。

このような地域の創り方を『まち育て』と名付けました。

この3つの戦略を、今進めています。」

 

”自らのまちを、自らの手で育てる”意識を醸成

行財政に限界がある現代において、特に重要なのはまち育て戦略だと語る髙橋市長。

その原点は市長に就任する前、今から約20年前の出来事にあるそうです。

「以前は、市内16の地域の公民館に職員が1人必ず張り付いて、住民の相談に乗るほか、いわゆるまちづくり全般をその1人の職員だけで担っていた時期がありました。

そうすると、その職員に頼りきりになってしまい、住民自らが『自分のまちについて考え、まちを作っていこう』という意識にはならないという状況がありました。

そこで、今から約20年前に、公民館を『地区交流センター』として、まちづくりの拠点と生涯学習の拠点とし、地域の自治組織に指定管理をしてもらうことになりました。

始めはギクシャクする場面もありましたが、次第に『自分たちの地域の将来は自分たちで考える』という意識は強くなりましたし、『考えたからには実践しよう』という意識も醸成し始めました。

この出来事と同じように、地域拠点の整備も、その地域の住民たちが自分事として取り組まなければなりません。

そうすることで、自分の地域に対する誇りが生まれ、次は『地域を今よりももっと良くしよう』という意識が芽生えるという好循環に繋がると思っています。」

 

 

地域資源を活用し、全国に北上市を発信するビジネスを作る

「地域ごとの都市計画を作っている都市の代表事例として、アメリカのシアトルが挙げられます。

5年ほど前にシアトルに視察に行ったのですが、それぞれのエリアごとに、まちのコンセプトが全く違っていました。

自然を大事にしたエリアや、ショッピングのためのエリア、それからアカデミックなエリアなど……。

それぞれの地域住民たちが、その地域のあり方を考え、特色のある素晴らしいまちを作り上げたことが伝わってきました。

加えて、マイクロソフト、スターバックス、アマゾンといった企業は、みなシアトル発なんです。

スターバックスは一軒の小さな店舗から始まりましたし、アマゾンは町の空き倉庫を使って何か出来ないかと考えた結果、あのサービスが生まれました。

どちらもシアトルの資源を使い、シアトルのライフスタイルを世界に発信している企業だと言えます。

北上市が今目指そうとしているのが、上述の名だたる企業と同じように、地域資源を活用した北上発のライフスタイルを全国へ発信すること。

それを叶えるために『ライフスタイルデザインプロジェクト』を2014年に立ち上げ、このプロジェクトから新たなビジネスや商品を生み出そうとしています。

多くの人が北上市で新たにチャレンジし、北上市を全国に押し上げるような企業が生まれるよう環境を整えていきたいです。」

 

 

北上市や地域の可能性を信じ、積極的に住民自治を推し進める髙橋市長。

「あじさい都市」構想には、これからの地方都市にとって重要な要素が詰まっていると感じました。

貴重なお話をありがとうございました!

 

 

【一関市長インタビュー】世界初の加速器・国際リニアコライダーを東北へ、新産業、技術の集積地に  ←|

その他の記事を読む 

 

監修 島越彩香 SAYAKA SHIMAKOSHI
宮城大学在学中に、一般社団法人MAKOTOでのインターンを経験。
2019年5月より、MAKOTO WILLに参画。PR・マーケティングチーム、アシスタント業務に従事。

 

自治体と共に地方から日本をおもしろく