首長インタビュー第13弾は、宮城県白石市の山田裕一(やまだゆういち)市長。

山田市長は40歳の若さで市長に就任し、子育て支援や、シビックプライドを醸成する教育環境の整備といった政策に積極的に取り組んでいます。

市長就任までのいきさつや、昨年新たにオープンした複合施設「しろいしSunPark」について、たっぷりお聞きしました!

全盲の母の存在が原体験に

「お世話になった白石市に恩返しをしたい。」

そう語る山田市長の脳裏に浮かぶのは、全盲の母と、その母を支えてくれた地域の方々の存在です。

「私の母は、私が小学校へ上がる前の年に脳腫瘍を患ったことがきっかけとなり、全盲になりました。

幸い、今も元気に暮らしていますが、そのような状況だったので、幼い頃から地域の方々に様々な面でお世話になっていたんです。

そのため、『将来は地域のみなさんに恩返しできるような仕事がしたい』と子どもながらに考えていました。

『教師になる』という夢を抱いていた時期もありましたが、『長男だし、家業のクリーニング屋を継いだら両親も安心するだろう』と思い、高校卒業後は、東京にあるクリーニング師の国家資格を得るための学校に行くことにしました。」

”困っている人の力になりたい”と、地方政治の道へ
20歳で晴れてクリーニング師の資格を取得し、白石市へ帰ってきたあるときのこと。

薬害エイズ事件(注1)の訴訟における、時の厚生労働大臣、菅直人氏の対応に衝撃を受けたと語ります。

注1: 1980年代、血友病患者に対し、加熱処理してウイルスを不活性化しなかった血液凝固因子製剤を治療に使用したことが原因で、多数のHIV感染者及び、エイズ患者を生み出した事件。国が非加熱製剤の危険性を分かっていながら、使用許可を出していたのか否かが争点の1つ。

「菅直人氏が厚生労働大臣になった時に、過去のデータをすべて開示して、『国は非加熱製剤の危険性を認識していながら使用許可を出していた』ことを明らかにしました。

その結果、被害者の方々との訴訟で和解が成立したんです。

その報道を見た時に『政治の力によって、本当に困っている人を助けることができるんだ』と思い、雷に打たれたような衝撃を受けました。

一方、身近な地方議会に目を向けてみると、若い世代や女性が少ないんですよね。

自分たちの生活に一番身近な議会なのだから、老若男女が揃ってはじめて市民の声を届けたり、行政に反映したりできるのではないかと思い、地方政治の勉強を始めました。」

死ぬときに悔いがないように。市長選にチャレンジ

その後、白石市議会議員選にチャレンジし、議員を務めた山田市長。

自ら議員研修を企画したり、政策提案を積極的に行ったりするなど、果敢に取り組んでいましたが、議員の立場ならではの葛藤があったそうです。

「私自身、4人の子どもがいたり、母の病気のこともあったりしたので、『子育て世代代表』として、子育て支援や教育、福祉の分野に特に力を入れたいと考えていたんです。

しかし、議会は、政策提案は出来るけれど、政策が実際に執行されるところまで関与できないという点で葛藤を抱くようになります。

ある時、とある病気にかかって10日間ほど入院するという出来事が起こり、『若くても健康だとは限らないし、死ぬ時に悔いがなかったと思えるような人生を送りたい』と考え、議員を辞めて市長選挙に出ることを決意しました。

妻には反対されるのではないかと思ったのですが、

『もし選挙に負けても命を取られるわけじゃないから。ただ、負けたらスッパリ政治からは足を洗ってください。』

という言葉をもらい、応援してくれました。

おかげ様で市長選で当選し、今に至ります。」

 

 

市民の声をカタチに、「こじゅうろうキッズランド」をオープン

山田市長が重点的に取り組んだ施策の1つに、昨年8月にオープンした白石市子育て支援・多世代交流複合施設「こじゅうろうキッズランド」を活用した子どもが中心のまちづくりがあります。

「議員に立候補した際、市内の子育て世代に『子育てのために充実すべき公共施設』に関するアンケートをとったところ、圧倒的に多かった意見が”屋内の遊び場”だったんです。

私自身も、上の子ども3人が男の子なので、外で遊べない日に家の中であり余ったエネルギーを発散させている姿を見て『雨の日でも子どもたちが自由に走り回れる場所があったら良いのに』と思っていたんですよね。

議員時代にも当時の市長に提案していましたが、整備には至りませんでした。

市長選の際にも、屋内のあそび場を作ることを公約として掲げ、当選後は最重要課題として取り組みました。

そして、2018年8月21日に『こじゅうろうキッズランド』がオープン。

乳児から小学生まで、それぞれの年齢に応じた遊び場がある他、NPOみやぎ・せんだい子どもの丘に運営を委託し、子どもたちや保護者の方向けのイベントを日々開催しています。

オープン当初、『年間来場者数8万人』を目標におきました。

8万人という数字は、公共の子育て支援施設にとってはなかなか高い目標でしたが、なんとか達成しようと皆で創意工夫を重ねました。

おかげ様で、オープンから1年が経った2019年9月1日に来場者数10万人を達成。

SNS等で若い子育て世代の方々が発信してくれるなど、嬉しい反響を多く頂いています。」

白石市の魅力を農商工一体で発信する「しろいしSunPark」の整備

こじゅうろうキッズランドは、賑わい交流拠点「しろいしSunPark」の中に位置しています。

しろいしSunParkには、地元でとれた農産物等を販売する「おもしろいし市場」、6次産業化加工施設の「みのりFactory」といった施設が並びます。

目的が異なる施設を同じ敷地に並べることで、どのような効果を狙っているのでしょうか?

「キッズランドで遊んだ後に、おもしろいし市場で買い物をする。

そうすることで、親子で一緒に料理をしたり食べたりするなど、地元でとれた美味しい野菜やお米に触れられる、”食育”の機会になるのではないかと考えています。

また、多くの方に来ていただく場所で農産物などを売れば、農家のみなさんのお役にも立てるのではと考えました。

6次産業化加工施設『みのりファクトリー』も併設し、白石市で採れた野菜や果物を漬物やジャムなどにして販売する取り組みもしています。

来年の4月には、地元の食材を活用したレストラン『みのりキッチン』もオープンする予定です。」

白石市で生まれ育ったことを誇れるようなまちに 

若い世代が就職や進学で都会へ行ったまま地元へ戻ってこない、といったことが社会問題となっている現代。

山田市長はこのような時代だからこそ、子どもたちに対する”シビックプライド”の醸成が重要だと述べます。

「この時代の地方自治体は、人口減少と少子高齢化で税収が減る一方、必要な医療費や社会保障費は増えるといったような状況で、白石市もこういった意味では恵まれた場所ではないかもしれません。

しかし、私は白石市に生まれてずっと生活をしてきて、白石市が大好きです。

同じように、これからの時代を生きる子どもたちにも、白石市で生まれ育ったことに誇りを持って欲しいと思っています。

市外や県外で活躍して、いずれは白石に帰ってきて起業するなど、そういった精神を醸成できるような環境を作りたいです。

そのために、白石市の歴史、雄大な自然環境、伝統文化などについて知り、『こんなにすばらしい資源があるんだ』ということを子どもたちに認識していただく場を作ること、そして、市民一人ひとりが地元の良さを自慢できるようなまちづくりをしたいと思ってます。

多くの市民のみなさんと一緒にさまざまなことに果敢にチャレンジしながら、笑顔溢れる白石市を作り上げていきたいです。」

 

自らが思い描く社会を確実に実現するために、市議会議員から市長にチャレンジした山田市長。

白石市を愛する気持ちと、「子育て世代を代表する」という強い意志が、多くの市民に支持される政策につながっていると感じました。

貴重なお話をありがとうございました!

 

 

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佐藤 桃子 MOMOKO SATO

東北大学経済学部在学中。
2018年2月にMAKOTOグループにインターンとして参画。地方自治体向け新規事業開発、広報等の業務に従事。

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